雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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価値観の崩壊『恥辱』

これが現代文学最高峰の底力。

恥辱(J・M・クッツェー)

★★★★★



ノーベル賞受賞作家の2度目のブッカー章受賞作品という派手な経歴を誇るこの「恥辱」だから読む前はちょっと身構えてしまった。それが意外や意外、すごく読みやすい。すごく文章が美しくてしかもすいすい頭に入ってくる。
分かりにくい作品は時にすごく深い作品のように思えるけど、そうではないのだと改めて認識させられる。本当に楽しくて、良い読書をさせてもらった。

デヴィッド・ラウリーは大学の准教授。もう初老の域に差し掛かり、離婚したために妻はいない。だから彼は性欲を満たすために娼婦の世話になったり、大学の女性と関係を持つなどしていた。
ある時彼はメラニーという学生と昵懇の仲になる。トラブルを避けるために一夜限りの恋とするつもりだったのに、火がついてしまったのだ。衝動に抗えなかった彼だったがこのことが明るみに出て、スキャンダルに発展してしまう。大学を喧嘩別れのようにして辞めた彼は南アフリカで暮らす娘の元に向かう。そこには思いもよらない恥辱の数々が待ち受けていた。

ラウリーはすごく頑固な人間だ。自分の価値観に純粋に従って生きている。メラニーとのスキャンダルがばれた時も彼は罪は素直に認めたものの、後悔はせず謝りもしない。
その姿勢を良いと思うか悪いと思うかはともかく、彼の価値観というのはアメリカの中でも通用しなかった。南アフリカという異国では言わずもがな。

この小説のタイトルである“恥辱”とは何だろう?
彼は南アフリカで様々な恥辱を受けることになる。直接的にも間接的にも辱めにあい、娘やその友人にさえ彼の考えは理解されず、議論は平行線をたどる。彼の境遇だって大学教授の時と比べると目も当てられない。そのような恥辱だろうか?
それとも恥を知らなかったかつての彼をして恥辱と言うのだろうか? 彼は衝動を抑えきれず、越えてはならない一線を越える。気に入っていたが店を辞めた娼婦の元へプライベートで会いにいったり、学生に手を出したりもする。読んでいると本当にやめとけよと言いたくなる。

アメリカ的な価値観というのはある程度私達も共有しているものだろう。だから私も彼と近いように考える。何でそうなるんだ?立ち向かわないんだ?
でもそれが受け入れられることはない。これは何とも皮肉じゃないか。アパルトヘイトという白人至上主義、貧しい有色人種を迫害する価値観をぶち壊した欧米の白人は新たな南アフリカでは異物で何者でもないのだ。

「なにがあっても、殺されないかぎり強くなれるのよ」

そうなんだろう。受容するしかないのだ、生きていくためには。

本筋とは逸れるが今日シーシェパードとクジラ漁のドキュメンタリーを見た。予想以上にヤクザで品性のない連中だったのでかなり腹が立ったのだが、彼らの一人がこんなことを言っていた。奴隷制のように伝統あるものでも悪習は変えなければならないと。
多分あまり考えずに言ったことだろうけど、価値観の変化という意味では同じだ。しかし何が違うのかと考えてみるとやはり自発性だと思う。奴隷制はアメリカの価値観自体が変わってきたために内から生まれた運動、戦争で廃止された。イルカ漁に関してはシーシェパードの価値観を押し付けて止めろと迫っている。アパルトヘイトもこれに似ていて、欧米諸国の価値観を押し付けられた結果廃止された。
その是非をここで問うつもりはないが、やはり不自然なものを感じてしまうのだ。正しいことなのか、そうではないのか分からなくなってくる。

「神よ、変えることのできないものを受けいれる潔さ、変えることのできるものを変える勇気 、そして両者の違いを見分ける知恵を、私たちにお与えください」スローターハウス5で知ったラインホルト・ニーバーの言葉。

本当にそんな知恵が欲しいと思った。恥辱はそんな小説だった。
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