雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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普通をいつの間にか飛び越える『11の物語』

パトリシア・ハイスミスの入門編。

415175951411の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
パトリシア ハイスミス Patricia Highsmith
早川書房 2005-12-08

by G-Tools
★★★★


 
後味の悪い、嫌ぁな物語を描くということで有名なハイスミスの短編集。初めて読むにはこれが良いんじゃないかなと思ったので手にとってみた。評判通り、素晴らしくもにょもにょさせてくれる作品ぞろいでとても好みだったので、次は『太陽がいっぱい』か『回転する世界の静止点』でも読んでみようかと。

 この短編集、例外はあれど基本的にはどれも普通の人々のお話。でもそこにはどれも日常を波立たせるゆらぎがあるわけで…。恋盗人は恋人(と言えるかも怪しいが)への求婚の返事を待つ男性のある種変質的な行動のお話であり、愛の叫びなんてお互いへの嫌がらせを思案しあう老人二人をひたすら描くだけだ。何とも普通なのだけれども、やはり読んでいてどこか引っかかるのは、どこかは分からないけれどもいつの間にか少しだけ普通じゃなくなっているからだ。いつの間にか、自分の中の倫理の壁を飛び越えているからだ。ここらへん、自分でも日常の中で気づかないうちにやはり“普通”を踏み越えているんじゃないかと心配になってしまうあたりが非常に嫌らしい。というか認めたくないけれども、やはりそんな瞬間はあるんだろうなあ。

 この短編集の中でもベストに挙げられるのはすっぽんヒロイン。母親に苛々している少年は、母が買ってきたすっぽんに興味を持つ。今まで大切にされたことのなかった女性が、家政婦兼家庭教師として住み込み先の恵まれた家庭で幸せを感じる。ハイスミスは徹底した一人称で、少年の、女性の感情を偏執的に描き尽くしていく。やっぱり一人称の物語の世界観はとても狭くて、しかもハイスミスの手にかかるとその緊迫感は半端じゃない。何かとんでもないことが起こるのが私たちにはもう分かっているのだ。そしてハイスミスが彼らの感情を描き尽くしたと思った瞬間、こちらの想像を超えたところに少年の、女性の行動は飛躍するわけ。でも彼らの中ではそれは理路整然とつながっているんだよね。衝撃のオチに、理解していたと思っていたのに全然そうじゃなかったという断然に、こちらはもうぶん殴られるしかなかった。特にヒロインの破壊力たるやもう…。
 ちなみにモビールに艦隊が入港したときも一人称を駆使して描かれた短編だけれども、これは逆に全く乗れなかった。世界観が狭いだけに乗れた時の快感は凄まじいんだけどねぇ。その逆も然りということで。

 後は例外的なお話としてはかたつむりを扱ったかたつむり観察者クレヴァリング教授の新発見なんてのもあったりして、本当にハイスミスかたつむりが好きなんだなあと笑。とはいえかたつむりを偏執的に観察しまくり描写しまくりのかたつむり観察者はハイスミスらしい短編で実に気持ち悪い一品です。生理的にぞわぁっと来る。クレヴァリング教授の新発見は、後味の悪い物語というよりわりとストレートなモンスターSFといった趣。こちらもおぞましい物語なのは間違いないけれど、かたつむりの動きはスローなのに島の狭さのせいで逃げられない状況がどこかアンバランスな滑稽さを感じて面白い。

 名前を挙げたもの以外にも、アフトン夫人の優雅な生活野蛮人たちはざわざわさせてくれる短編でお気に入り。シャーリー・ジャクスンのような後味の悪い話が好きな人、もにょもにょした気分になりたい人におすすめ。
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