雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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何度でもデス博士に会いに行こう!『デス博士の島その他の物語 』

本好きにはたまらない小説。

4336047367デス博士の島その他の物語 (未来の文学)
ジーン ウルフ Gene Wolfe
国書刊行会 2006-02

by G-Tools
★★★★★


 
 「読むこと」に関わる5編を収録した作品集。ジーン・ウルフ初体験だったのだけれど、いやぁこれはすごい。こんなとんでもない小説を書く人だったんだ。
 解説にあるように、ジーン・ウルフほど本を読むことの喜びと苦しみと知っている人はそうはいないんだろう。ここにあるのは「読むこと」への単なるノスタルジックな感情では決してない。本を読む喜びの裏には絶対に本を読む苦しみがあるわけで…。飛浩隆がグラン・ヴァカンスシリーズで物語を享受する喜びの裏にある悲惨さを鮮烈に描いたとすれば、ジーン・ウルフはこの作品集で本を読む苦しみの裏にある踊りだしたくなるような喜びを語る。だからこそ読み終えた時、心底本が好きで良かったと思った。本の中の彼らに心から感謝した。そんな感情を抱かせてくれる本当に貴重な読書体験。

 特にお気に入りは以下の3編。

 「デス博士の島」
 母親に少しだけないがしろにされがちな少年が買ってもらった一冊の本。浜辺で遊んでいた彼の元にランサム船長が訪れたのを皮切りに、次々と彼の周りへ物語の登場人物が姿を現していく。
 この物語は“きみ”という徹底した二人称で語られていくのだけれども…。少しずつ不幸へと落ち込んでいく少年を慰めるかのように、彼の周りへ現れるモロー博士の島を髣髴とさせる物語の登場人物たち。彼らは少年が現実から逃げ出すために作り出した幻想なのか? そうなのかもしれない。でも現実の人物にデス博士が干渉したかのような場面もあり、現実は混迷を深めていく。そして訪れる終局。“きみ”にデス博士は言うのだ。

「だけど、また本を最初から読み始めれば、みんな帰ってくるんだよ。ゴロも、獣人も」

 “きみ”とは少年であり、私のことだ。“みんな”とはデス博士たちのことであり、私たちが読むこの物語のことだ。ウルフによる言葉のマジックで、フィクションと現実の壁はぶち壊される。そう、私たちが何度だってやり直せるように、彼らには何度でも再会することができるのだ。本を開くたびに何度でも何度でも。これには本を愛する人間として心が揺さぶられないわけがないよなぁ。

 「アメリカの七夜」
 探偵から、女性の元へ送られてきた手紙。その中には、失踪した彼女の息子が過ごしたアメリカの七夜が綴られた日記が同封されていた。
 意外や意外な怪奇もの。見てはいけないものを見てしまった青年の七夜の記録。異形のアメリカが垣間見えるのにも興奮するけれど、この物語のホラー色はウルフの“騙り”によってより幻想的に彩られる。七夜と書かれているのに六夜分しか書かれていない日記、一つだけ幻覚剤が入っている卵菓子を毎日一つずつ食べていた青年によって書かれた日記。博物館で買ったという幻覚剤は本当に効き目があったのだろうか? 破られた日記のページとは? そもそも本当にこの手記は青年によって書かれたものなのか? 限界まで幻惑される現実に眩暈を覚えると共に酔いしれた。幻覚剤入りの卵菓子を食べたのは私だったんだ。
 
 「眼閃の奇蹟」
 網膜によって個人が認証される管理社会の中で放浪する盲目の少年。教育長、親切な男性、そして銅男やライオンたちが彼の周りに現れる…。
 物語は盲目の少年の視点で語られていく。なので、読んでいる私たちも現実の世界を見ることが出来ない。しかしその一方で、オズを豊富とさせる夢の中では彼は鮮明にモノを見るのだ。この時点で既に混乱を来たしていた私の頭は、現実が夢によって侵されていく場面に至ってもうめちゃくちゃになる。さらに物語が進むにつれてSF的解決がこの事態につけられようかとするのだけれど、ウルフがそんなことを許すはずもない。現実とフィクションが少年の手を取り合って進んでいくラストでようやく私も気付いた。これもまたデス博士だったんだ。しかし何なんだろうねぇ、読み終えた時のこの喜びは。
 
 「読むこと」をたかがフィクションだろの一言で終わらせないためには、現実が物語に侵されていかなければならないんだろうなあ。 「デス博士の島」において“きみ”が作中の少年であり私であったように、「アメリカの七夜」で限界まで幻惑される現実のように、「眼閃の奇蹟」で現実とフィクションが手を取り合って進んでいったように。ジーン・ウルフはフィクションを現実と皮一枚の所まで近づけてくれる。だからフィクションであるはずの本の中の登場人物たちに心から感謝したくなったのだ。
 上で特にお気に入りは以下の3編なんて書いたけれど、他の2編を私がまだ噛み砕けていないというのが正直な所(この3編もまだまだだけれども…)。何度も再読しないとね。ただそんな噛み砕けていない部分があることなんて全く気にならない。というか嬉しいとさえ感じたりもする。だって私たちは何度でもデス博士に会いに行けるのだから!
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| 小説 | 01:06 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

「デス博士」面白いですよね!

特に表題作、主人公の孤独な少年が面白い本を読んで「この本、おもしろい!」と興奮する所、本好きな子供の喜びがあふれ出ていて、忘れていたものを取り戻したような思いです。
読んだのが何年も前なのと、イマイチ読解力がないのとで、他の短編については「面白かった」という漠然とした印象しか残っていないのですが、「死の島の博士」「アイランド博士の死」という言葉遊びのような3篇がそれぞれまったく違う手触りの面白さだったのが印象深く、「ジーン・ウルフって凄い・・・!」と思い、続けて「ケルベロス第五の首」も読みましたがやはり、よくわからないなりに面白かったです。
(でもその後、「新しい太陽の書」シリーズでは2巻の途中あたりで挫折しましたw)

骨付きタローさんの記事を読んだら、またデス博士その他を読み返したくなりました!

| イザク | 2012/10/01 00:28 | URL |

Re: 「デス博士」面白いですよね!

デス博士は私も一番印象深いです。
話自体分かりやすいですいし、子どもの頃に本を読んでいた時の原体験を呼び起こしてくれました。
後の4編は精読・再読が要求されますよねぇやっぱり。
他の作品に関しては、この作品集以上に超絶技巧とか聞いた記憶があります。
とりあえず次は「ケルベロス第五の首」を読んでみようかと思ってますが若干不安な…。

> 骨付きタローさんの記事を読んだら、またデス博士その他を読み返したくなりました!
ありがとうございます!
そんな風に言ってもらえると更新する意欲が湧いてきます。

| 骨付きタロー | 2012/10/01 08:33 | URL |















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