雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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心を揺さぶる諦観『スローターハウス5』

戦争小説の異色作にして名作。こいつはすごい。

スローターハウス5(カート・ヴォネガット)

★★★★



最初はSFと反戦小説を組み合わせる意味が全く理解できなくて、何となく不謹慎だなとも感じていた。申し訳ない、こんな形で戦争を描く発想があろうとは。

米国兵のビリー・ピルグリムが主人公。彼は時間旅行者だ。時間旅行者といってもタイムスリップをするというわけではなくて、ちょっと分かりにくいが、人生で起こったことを彼は何度でも体験できるということ。
彼の意識は至る所に時系列を無視して飛んでいく。ある時はドイツ兵から逃げていたり、ある時は死ぬ瞬間を体験したり、ある時はドイツ軍の捕虜となっていたりする。
ビリーの意識は次々に彼の人生の様々な時点に飛んでいくから、私達はそんな風に行ったり戻ったりしながら彼の人生を体験していくことになる。

この小説はなんだろうな、反戦小説というとそうなのだけど、戦争だけではなくて色々な抗いがたいことが起こる運命に対する姿勢を示している小説だ。作中の多くの語尾に挿入される“そういうものだ”という言葉。それは一見とても後ろ向きで虚無的に思えるかもしれない。でもそのどうしようもない諦観にすごく共感してしまう。

自分がすごく大きなものの歯車に過ぎないというのは様々な場面で誰しもが感じたことだと思う。自分は何を変えることはできない、何かの一部でしかないのだと。
そういう気持ちをトラファマドール星人の存在はうまく表している。そういうものだ、運命は変えることができない、人生の一番いい所だけを見て過ごすんだ、そんなトラファマドール的な感情に陥ったことのある人間はこの小説にどうしても没入することになる。

ドレスデン空襲を実際に体験した作者は実際にこんな気持ちになったのだろう。何が起こっても麻痺した心は、“そういうものだ”で済ませてしまう。何も感じないようにすることが彼の心を守るためには一番良かったのか。
淡々と読み進められるからこそどこか鳥肌が立つものがある。何とも幻想的でブラックな戦争小説。こんなスタイルで辛く悲惨な戦争を描く作者に尊敬の念を覚えつつも、そんな作者に哀しさを感じてしまう。

唯一気になったのが広島の原子爆弾投下との比較。ドレスデン空襲の方が被害が大きかったとあるが、この小説での死者13万人というのは当時の認識で、実際は3万5千人程だったようだ。どうも死傷者数で被害を比べている節があるのと放射能による二次被害を作者が知らないようで、どうしても被爆地出身の私にはそこが引っかかった。
そこは重要な所ではないのはもちろん分かっているのだけど、気になったので記しておく。

表紙からは星新一のような内容が想像されるかもしれないが、単なるSF小説ではない。むしろSFは道具に過ぎない。その中にあるものをぜひ感じて欲しいなと思う。
戦争を体験した人間が至った境地の一つがここにはある。それは多分私達にも置き換えられるものだ。

すごく後ろ向きだけど、人生って決して前向きなものだけではないよね。色々なことが起こるし、何にも出来ないことだってたくさんある。
そういうものだ。

そういうものだ。
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