雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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幸運とは、幸運を活かす力とは『シップブレイカー』

初バチガルピ!

4150118671シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)
パオロ・バチガルピ 鈴木康士
早川書房 2012-08-23

by G-Tools
★★★


 
 「ねじまき少女」「第六ポンプ」等、日本でも昨今人気のバチガルピ最新刊。これが初めての作品というのはちょっとどうなのかとも思ったのだけれども…。バチガルピに興味があったのに加えて、ウエスターフェルドの「リヴァイアサン」の翌年にローカス賞ヤングアダルト部門受賞ということで読んでみることにした次第。

 現在の文明崩壊後の世界。主人公ネイラーは旧世界の船舶から銅線等の資源を回収するシップブレイカーの一員として働いていた。彼は身体の小ささを活かして船内のケーブルに潜り込んで仕事を行う。ケーブルは時に崩壊することもあるし、ケーブル内ではアスベスト等の粉塵を吸い込むことになる。とても危険な仕事ではあるが、こんな仕事でも失くしてしまえば暮らしてはいけない。困難な仕事から帰っても、誰もが恐れるアル中の凶暴な父親に殴られることに脅える毎日。そんな抜け出しがたい底辺の世界にネイラーは生きていた。
 ところがある日彼と仕事仲間の少女に幸運が訪れる。激しいハリケーンの翌日に金持ちが乗っている高速船の残骸を発見するのだ。そしてネイラーは彼の運命を決定的に変えることになる美しい少女と出会うのであった…。

 ディストピア世界のラピュタといった趣き。文明崩壊後の石油が枯渇した世界、旧世界の遺産を食いつぶしながらも独自の文明が発達しているのがおもしろい。しかしヤングアダルトとは思えないほどにこの世界のシビアさは真摯に描かれる。いくら能力があっても、機知に富んでいても、誠実であっても、生まれる場所を間違えればどうにもならない。そして運がなくては生きてはいけない。そんな厳然たる現実が繰り返し語られ、実際に示される。
 今にも石油の匂いが漂ってくるようなおぞましく薄汚れた空気と水、獣の遺伝子と人の遺伝子が組み合わされた半人たち、そして圧倒的な存在感を示す狂気の父親…そんな世界に生きる底辺の少年とさながら王女のような身分の美しい少女が出会うのだ。ぬるーいボーイ・ミーツ・ガールにはなるわけもない。バチガルピが描き出すのは、薄汚れた世界だからこそ見える人間の高貴さと勇気であり、自らの死が隣に見える世界での冒険だ。「幸運」が訪れなければ転げ落ちるしかない世界、そして「幸運」が訪れてもそれを活かせる頭がなければやはり転げ落ちることになる世界。そんな薄汚れた世界は魅力的で、ネイラーだって単純に少女を助ける勇者ではない。彼にだって先の思惑はあるし、しかしその上で少女を助けたいという純粋な思いだって嘘じゃない。そんな人間臭い冒険だからこそ読んでいてネイラーに深く共感するし、彼の判断一つ一つにどきどきさせられることになる。

 しかし物足りなさは残ったというのも正直な所。世界観の描写に多くの筆が割かれているだけあって、このバチガルピ世界の魅力と奥行きはすごい。しかしすごいだけに、物語がこの世界観に乗っかってるだけというのは残念だった。要は物語を語ることが世界を語ることではなかったということで、まだまだ語り残された魅力的な世界が見えるのだ。そしてもっと見たいんだよ…。それならば「ねじまき少女」を読めということなのだろうか。
 またボーイ・ミーツ・ガールとしても内容が薄いんだよなぁ。世界観描写に多くが割かれ、少女とネイラーが共に過ごした時間が少ないだけに、ネイラーの恋心に今一ぴんと来ない。またこう言ったら身も蓋もないかもしれないけれど、これは結局世界が違うだけでラピュタじゃないのという期視感。物語自体は馴染み深いというか分かりやすい展開なだけに、あんまりセンス・オブ・ワンダーを感じることが出来なかった。そういう意味ではジブリが染み付いた日本人にとっては不運な小説かもなぁと思ったりもする次第。

 若干消化不良感は残ったものの、バチガルピに魅力の一端は何となく伝わった気がする。物語よりもこの一筋縄ではいかない世界が心地よかった。次はねじまき少女でバチガルピの本領を見てみたい。
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| 小説 | 23:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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