雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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共感できる狂気『スキャナー・ダークリー』

映画はどんななのか気になるところ。

4150115389スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K. ディック Philip K. Dick
早川書房 2005-11

by G-Tools
★★★★


 
 ディックの作品の中でも、トリップ感は随一。こっちまでアイデンティティ崩壊の波に一緒に飲み込まれてしまった次第。

 主人公のフレッドは麻薬捜査官。おとり捜査のために、ボブ・アークターという名でドラッグ中毒者たちの仲間として生活している。しかしフレッドは何と上司にアークターを見張るように命令を受けることに。自分で自分を見張るという奇妙な状況、そしてアークターとして生活する内に自らもまた中毒となった薬物のためにフレッドの現実は徐々に崩壊していく…。

 自分で自分を見張るという一見ありえない命令。こんなことが何故起きるかというと、まず上司や同僚ですら機密を守るため、麻薬捜査官が普段どんな人物としてドラッグ中毒者に成りすましているかを知らないから。そして、麻薬捜査官は姿を書き換え続けるスクランブルスーツなるものを着用するため素顔が分からないからだ。
 このようなガジェットや設定はもちろんおもしろいのだけど、あくまで物語の取っ掛かりに過ぎなくて…。この作品のすごみは、狂った人物に感情移入してしまうってことにある。
 
 一般的に、気が狂った人物はこちら側の世界の理解が及ばない人物として描かれることが多い。だって気が狂っているということは私達と決定的に違うということだからだ。狂気に共感することは、自分が正気である限り難しい。
 ところがディックは、フレッドが「こちら」と「あちら」の線を踏み越える瞬間を描いてしまう。圧倒的な説得量を持って。だからこそ私達はフレッドに、アークターに、そのどちらでもない狂ってしまった男に感情移入してしまう。狂気に共感してしまう。そしていつの間にか、私まで「こちら」と「あちら」の線を踏み越えていることに気付いてしまうのだ。正気と狂気はフレッドだけでなく、私の世界までも混沌としてくる。いやぁ、とんでもない。

 何でこんな作品が書けるかというと、ディック本人にも言及されているように、彼自身がドラッグの常習者だったということはあるだろう。ただその感覚を表現する文章の方がとにかくすさまじいように思う。
 人称や言い回しを巧みに変化させることで、フレッドの裏返しだったアークターがいつの間にやら変わっていく。フレッドがアークターの裏返しになったり。フレッドとアークターが混然一体となったり。最終的にフレッドは本当にアークターを見張るようになり、決定的な崩壊に至る。

 トリップ感がすさまじかったそれまでと異なり、終盤はドラッグの犠牲者に対する感傷とやり場のない怒りに満ちたエピローグとなっている。あまりに馬鹿馬鹿しいこの世界の仕組み。そして一抹の希望で終わるラスト。これは泣けないわけがない…。

 ってことでもちろんおすすめ。ドラッグで気が狂うのを追体験できるなんで私はこの小説しか知らない。物語としても超一級品です。
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| 小説 | 23:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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