ぞっとして温かくなって『ロアルド・ダールの幽霊物語』
「チョコレート工場の秘密」のような児童小説家であり、短編の名手でもあるロアルド・ダール編纂の幽霊アンソロジー。元々はTVドラマのシリーズ用に収集したのが、ドラマの企画がぽしゃってしまったために、この14の優れた短編だけが残ってしまったとか。
この幽霊物語(原題:GHOST STORIES)という素朴なタイトルがとても良い。幽霊とはいっても心底震えてしまうようなものはなくて、少しぞっとする話から心温まる話、古式ゆかしい話、わくわくする話まで、寝る前に気軽に読める良質な小品揃いのこのアンソロジーに相応しいタイトルだと思う。
今や当たり前のことだけれども、幽霊って怖いだけの存在じゃないんだよなぁ。日本の幽霊も素敵だけれど、欧州の幽霊も素敵ですよ。多様な幽霊の姿を紹介してくれるという点でも、実に粒の揃った良い作品集。幽霊嫌いな人はそういないと思うので、おすすめ。
いくつか特に印象的なものを紹介。
「ハリー」
空想の遊び相手、ハリーに熱中する娘。しかし母親は次第にハリーが娘の想像の産物ではないような気がしてきて…。
母親自身が幽霊の姿が見えるわけではないという所にまずぞくっと。さらに、娘を心配する母親をもう一回り外から見ると、育児ノイローゼで正気を失いかけているようにしか思えないわけで…。ハリーと娘の世界と現実社会の狭間で引きずり回される母親の不穏な緊張感にはぞくぞくする。確かに普通の名前だからこそ時に怖いよねぇ。
「クリスマスの出会い」
クリスマスを一人で過ごしていた女性の元に、部屋を間違えた一人の男性がやってきた。お互い寂しさを埋めるように楽しい会話をしていると、突然男性は姿を消してしまう…。
素敵でロマンチックな幽霊譚。ありえない二人が交錯したクリスマスのちょっとした奇跡。ついため息が出てしまいそうになる。
「遊び相手」
偏屈な老人が、何故か亡くなった友人の娘・モニカを引き取ることに。大きな屋敷で孤独に育つモニカであったが、どうやら屋敷の中で空想の友人達と遊んでいる模様。しかしどうやら雲行きが怪しくなってきて…。
この作品集のマイベスト。とにかく奇妙で底抜けに優しい幽霊屋敷が印象的。また“遊び相手”が代わるラストは物悲しくも美しい。死者が生者を癒すほろっとくる良いお話でした。
「上段寝台」
主人公の男が泊まった船の客室は、過去必ず宿泊客が海に飛び込むといういわく付きの客室だった。彼は謎を解こうと奮闘するが…。
これの何が良いって、愚かにも危険と分かって意地張って謎を解こうとするのが素敵。そして男の子ならばそうしたくなる気持ちは分かってしまうのだ。さらには幽霊と格闘しちゃうあたりはもう馬鹿すぎる笑。全く怖くはないけど最高にわくわくな一編。
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