雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

理解することとは『きみの血を』

とてもおもしろくて、とても痛い読書体験。

4150410275きみの血を (ハヤカワ文庫NV)
シオドア スタージョン Theodore Sturgeon
早川書房 2003-01

by G-Tools
★★★★


 
 人間以上を読んでから大好きな作家の一人となったシオドア・スタージョン。こちらはスタージョン作品の中でも異色作である一方で、ある意味一番スタージョンらしいようにも思えたり。

 米軍のある少佐が、友人の検閲官に異常と思える手紙を見せられる。精神科医でもある彼はその文面を見咎め、手紙の書き手である兵士と面会することに。平穏に会話を進める両者であったが、「狩り」と「手紙」に話題が及ぶやその兵士はガラスのコップを握りつぶし少佐に飛び掛ろうとする。しかしガラスで傷ついた手から吹き出る血に気付くと、彼は動きを止めて傷口に口を押し付けるのであった…。

 兵士の手記を挟みながらも、兵士の診察を託された精神科医と陸軍大佐の往復書簡が連なって物語は展開していく。これがまあ、特に最初の方は何とも地味なのだ。兵士の手記なんて、ただひたすらに彼の幸福とは言えない現在に至る生い立ちを聞かされるわけで。多少不穏で妙な雰囲気こそあるものの正直退屈にすら思える。それでも気付けばぐいぐい読まされているのは、やはり何かがおかしいという予感があるからこそ。
 精神科医の分析を軸に、兵士の手記における“騙り”が次々に明らかになる物語の後半、これがお見事。謎解きに胸を躍らせる一方で、尋常ならざる兵士の性癖と恋人との性的関係にはあまりのおぞましさに震えた。

 というようにミステリーやサスペンスとして非常におもしろい小説ではあるのだけれども。これをスタージョンが書いたということにけっこうな違和感を感じてしまうわけで。
 スタージョンといえば短編においても長編においても、普通の人とはずれた世界を持つ人々を多く描いてきた。誰よりも理解と愛を欲しながらも、決してそれらを得られない人々の悲哀と孤独を痛切に描いてきた。この小説の兵士、ジョンだって普通の世界と“ずれた”人なのだ。スタージョンという作家がそんなずれたジョンの世界の中に、精神医学というメスを使って土足で分け入っていく。そこには慈愛も悲哀も存在しない。正直な所、らしくないなぁと思った。

 しかしそこで、最初と最後のメタフィクショナルな視点は何なのかという点。ここにスタージョンが忍ばせた刃があったわけで。もうぐさっとやられてしまった。

 結局、精神医学による分析で私はジョージを理解したのだろうか。しかし本当に彼の世界を理解したならば、おぞましさに震えることなどあるのだろうか。
 ジョージによると、西部劇で善い奴は肩か胸を撃たれ、悪い奴は腹を撃たれるそうだ。ジョージはどちらを撃たれるべきなのか?…そう、腹だといつの間にか私も思っていたのだ。

 上手く言語化できないのだけれど、そこにすさまじく深い隔絶を感じてしまう。人は他の何者にもなれない。それは当たり前なのだけれども、いつの間にか誰もが誰かに対して腹を撃たれるべきか胸を撃たれるべきかを判断していて…。でも本当に誰かを理解した時に、その人が腹を撃たれるべきなんて思えるわけがないのだ。それがどんな人であっても。

 スタージョンはサイコ・サスペンスの殻に包んで読者に皮肉の煙を吹きかける。ジョージを分かった気になっている私達に。“サイコ”なんて思ってる限り理解したなんて言えるのかい?
 改めて、自分と他人の世界には事実とフィクションくらいの差があるのだとこんな不意討ちの形で突きつけられるとやはり寂しい。そしていつの間にか思いあがっている自分が恥ずかしい。そんな誰よりもずれた世界の孤独を痛烈に描くスタージョンだからこそ、誰よりも切なく愛と救済を描くのだけれど…。この作品ではひたすらに痛くて寂しい。
スポンサーサイト

| 小説 | 02:14 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://honetsukitaro.blog.fc2.com/tb.php/200-b4780290

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。