雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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奇想天外『香水―ある人殺しの物語』

“におい”だけに執着し続けた男の一代記。

4167661381香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)
パトリック ジュースキント Patrick S¨uskind
文藝春秋 2003-06

by G-Tools
★★★★★


 
 少しずつ年を重ねて色んな物語を読むうちに、自然と“驚き”というのは薄くなってしまう。知れば知るほど、読めば読むほど、世界は見えてきてしまう。小さい頃に「ガリバー旅行記」や「千一夜物語」を読んで素直に驚嘆し、わくわくしていた気持ちを少し懐かしく思ったりして。
 一人の人間の想像力なんて限られたものだから、真の意味で新しい物語はめったに出てこない。限られた範囲・ジャンルの中での新しさを普段私達は楽しんでいる。でもその一方で限界と思われた想像を軽々と飛躍できる作家と作品は確実にいるんだよなぁ。夢野久作の「ドグラマグラ」のように、そしてこのジュースキントの「香水」のように。

 「香水」は匂いと臭いの物語だ。あるとてつもない嗅覚を持ち、においへの執着以外には何も持たない男の物語だ。
 汚濁と汚物にまみれた悪臭の都市・パリでグルヌイユは産まれた。産まれた瞬間に母親に殺されそうになり、その後も死に瀕し続けるグルヌイユだったが、その本能で何とか生き延びていく。そして少年となったグルヌイユは、ある日未知の香りに出会う。匂いを慎重に辿っていった彼が出会ったのはこの世のものとは思えぬ美少女と芳香であった。その匂いを自分だけのものにしたくなった彼は少女を絞め殺してしまい…。

 この作品で描かれるのは匂いと臭いだ。悪臭に満ちていたというパリ。酢漬けのキャベツや体を洗わない人間のすっぱい体臭、死体、魚の臓物、疫病、セーヌ川の汚濁…こちらまで伝わってきそうな強烈な臭いの描写が作品の大半を占める。そしてまた主人公グルヌイユの異常性に始まり、彼が出会う人出会う人全てが非常に不愉快な人物ばかり。この作品はグルヌイエが産まれる場面から始まるのだけど、もうその出産シーンからして色んな意味でえげつないのなんの。そしてようやく産まれたかと思えば母親は即彼を殺そうとする。何というグロテスク。
 そんな中で美少女の芳香とグルヌイユが創り出す香りの美しさは否応なく際立つ。まさにこの世のものとは思えないような。

 天国の芳香とグロテスクな悪臭、そんな最上と最悪が行き来する世界。少女を殺した後、匂いに取り付かれた男は数奇な人生を歩むことになる。いやもう本当に数奇な、とかでは絶対伝わらないであろう人生。
 私達が主に目で世界を認識しているように、グルヌイユは主に鼻で世界を認識している。花を私達が見た目で区別するように、グルヌイユは花を香りで区別する。そんな男にとって、世界は私達のものと決定的に異なるはずだ。ジュースキントはそんなグロテスクな異世界をその圧倒的な筆致で描きつくしていく。

 「香水」を読んでも、作者のメッセージが感じられるわけでも登場人物に共感できるわけでもない。ここにあるのは決定的に違った世界を垣間見れるという喜びだ。絶対的に味わったことのない物語を読めるという楽しみだ。
 結局これはにおいと愛を求めるファンタジーであったと思う。自らの体臭が無いグルヌイユは自己矛盾がゆえに究極のにおいを求め、更なる自己矛盾がゆえに衝撃の結末に至る。彼が求めるものを手に入れるために最終的に選んだ手段…哀しく、グロテスクで、奇想天外で、完璧な最後だった。

 こんな物語に出会えるから本を読むことはやめられない。元々は誰もが知らない世界を覗きたくて本を読み始めたはずだ。ここにはそんな原初の気持ちに立ち返ることが出来る未知の世界と物語がある。最高にグロテスクで、最高に美しくて、最高に奇想天外な物語。傑作!
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| 小説 | 01:15 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

No title

傑作ですよね。いままでに無かった部分の想像力が刺激される、って感じで、珍しく一気に読んだ小説です。(同じく匂いから始まる「失われた時を求めて」は挫折してしまいましたが)
山にこもる下りが特に印象的ですね。
読んだ当時はグルヌイユが最後にとった行動とか理解できない部分があったので、また読み返してみたくなりました。個人的には諸星大二郎の無面目が想起されるんですが。

| フォーク | 2012/04/20 16:07 | URL |

Re: No title

傑作ですよね! 私も一気読みしました。
失われた時を求めてはトライしてさえいないです。
これとユリシーズは死ぬまでに一度は読破してみたいですが、怪しいw
ラストは結局自己矛盾ゆえににおい(愛)を持てなかったグルヌイユが愛を得るためには…ってことかと解釈してますが私ももう一つぴんと来てないです。
無面目は未読ですが、おもしろそうですね。読んでみます。

| 骨付きタロー | 2012/04/20 18:34 | URL |















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