雨の中の涙のように・・・

雨の中の涙のように、私の記憶もみな時と共に消えてしまうのか? そうなる前に日本内外問わず私の愛する漫画や映画、小説について書き残しておくブログ。

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呪いを解くために『弧笛のかなた』

今年の私の読み始め。上橋菜穂子の和製ファンタジーです。

4101302715狐笛のかなた (新潮文庫)
上橋 菜穂子
新潮社 2006-11

by G-Tools
★★★★



 上橋菜穂子といえば、「獣の奏者」や「守り人シリーズ」がやっぱり有名なのだけれども、その二つの作品の間に書かれたのがこの「弧笛のかなた」になる。
 上橋菜穂子が和製ファンタジーを書くってこと自体がまず私にとっては意外なことで。だって上橋菜穂子はトールキンのように、自らのファンタジーの世界を構築し尽くすことに長けた作家じゃないですか。でもこの作品で上橋菜穂子が焦点を置いているのはあくまで日本。

 弧笛のかなたは神々が生きていたかつての日本での、人と人外の恋物語でもあり、呪いを解く物語でもある。人とそれ以外のものとの交わりというのは日本昔話の古典だ。その多くは引き裂かれる運命、もしくは人の業への代償を支払って美しい娘は人の世を去るというのが一つの典型になるかと思う。
 もちろん上橋菜穂子だからそんな当たり前の展開にはならないのですよ。これは昔話の古典にも関わらず、やっぱり新しい物語だった。

 というのも弧笛のかなたは片方に偏らないんだよね。人の側にも、そうじゃない側にも。それこそが私が新しいと思う理由でもあるし、気に入っている理由でもある。
 “境目”というのは物語全編を通して鍵になる。神の世と人の世の間にある“あわい”、人の争いの連鎖という呪い、人と妖怪の恋物語、物語の帰結…全ては“境目”で調和している。

 争いを止めるためには譲らなければならないし、妥協点を探さなければいけない。それは当たり前のことだけど、それがなかなか出来ないから争いは無くならないわけで。けなげな小夜と野火は、本当にそのけなげさが胸を打つと共に、私が無くしてしまったもののようでちくりと痛い。
 そんな当たり前で難しいことをテーマに据えるのはずっと児童文学の世界にいた方ゆえだろう。そしてテーマと据えるだけではなく、昔話の古典と絶妙にブレンドし、大人が読めるファンタジーとして昇華できるのが上橋菜穂子の素晴らしさ。私が言うまでもないですが、すごい人だよなぁ。

 単巻だから当然なのだけれど、獣の奏者や守り人の比べるとあまり物語は広がらないし、主人公の二人以外の描写は物足りない部分もあった。特に小春丸に関しては必要最低限の描写という印象で、ちょっと記号的というかね。
 もちろんそれはしょうがないことではあって、その分メッセージ性や物語の構造がすごく印象的な作品となっている。良い物語を読んだという実感、そして言語と幻想的な神々の世界をひっくるめた日本の美しさがそこにはあった。

 ということで、他の上橋作品を気に入った方はこちらもおすすめ。壮大さや派手さはないけれど、実は上橋作品で一番隙がないんじゃないかと思ったり。内側に優しく根を張る切ない物語です。やっぱり上橋菜穂子は信用できる作家さんですよ。
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